院長ブログ

2014年3月31日 月曜日

日中の眠気のない睡眠時無呼吸症へのCPAP治療の効果

CPAP治療は、睡眠時無呼吸症患者への第一選択の治療法である。しかしながら、症状の有無に関わらずCPAP治療が導入されるべきかどうかはいまだ明らかではない。
Barbe Fらは、日中の眠気のない(ESSスコア<10)無呼吸症患者へのCPAP治療の臨床的意義を検討した。スペインにて日中の眠気のない、心血管系疾患を有しない睡眠時無呼吸症患者723名をCPAP治療群と非治療群に分け、平均観察期間4年間の高血圧や心血管系疾患の発症イベントを検討した。CPAP治療群357人では、68人の新規高血圧発症および28人の心血管系疾患のイベントを認めた(年間発症率9.2%)。また非治療群366人では、79人の新規高血圧発症および31人の心血管系疾のイベントを認めた(年間発症率11.0%)。日中の眠気のない閉塞性睡眠時無呼吸症患者へのCPAP治療は非治療群に比べ、統計学的には高血圧の新規発症や心血管系疾患のイベント発症を有意に抑制することができなかった。

ゆみのコメント:
睡眠時無呼吸症患者の主要な症状のひとつである「日中の眠気」に焦点をあて、同症状を有しない無呼吸症患者へのCPAP治療は、高血圧や心血管系疾患のイベントを抑制できないことを報告した研究です。つまり本研究結果より、日中の眠気は無呼吸症のひとつの治療意義を示す重要な症状であることが分かりました。それでは、日中の眠気がない無呼吸症患者は治療を行わなくていいのかという議論になります。現段階では、心血管系疾患イベント抑制を目的とすると、積極的治療を行うべきであるという明確なエビデンスがありません。しかし、無呼吸症には日中の眠気以外にも、熟眠感の欠如、夜間頻尿、起床時の口渇感や頭痛、またベッドパートナーの不眠など、様々な症状を有します。このほか、抑うつや認知機能、生活の質などの関連性も示唆されています。またすでに治療抵抗性高血圧や狭心症、心不全などをもった眠気のない無呼吸症患者にCPAP治療を行わなくて良いというエビデンスもありません。
本研究は、睡眠時無呼吸症を無呼吸低呼吸指数(AHI)のみで治療方針を選択しがちであるこの領域の医療を、EBM(Evidence based medicine)とNBM(Narrative based medicine)を用い、最新のエビデンスはもちろんのこと、対話のなかで患者の主な訴えを聞くことで、個々の症例で慎重に治療選択を行うべきである、というメッセージをも含んでいる臨床上も意義のある研究と考えます。

引用文献:Barbe F et al. Effect of continuous positive airway pressure on the incidence of hypertension and cardiovascular events in nonsleepy patients with obstructive sleep apnea: a randomized controlled trial. JAMA. 2012;307:2161-8.

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2014年3月17日 月曜日

SASに合併した治療抵抗性高血圧へのCPAPの効果

治療抵抗性高血圧患者の70%以上に閉塞性睡眠時無呼吸症を合併する。しかしながら、これらの患者のCPAPの血圧への効果はいまだ明らかではない。
Martínez-Garcíaらは、多施設前向き研究にて、睡眠時無呼吸症を合併した治療抵抗性高血圧患者194人をCPAP治療群と非治療群を無作為にわけ12週間の観察を行い、24時間血圧測定にて血圧への影響を検討した。尚、治療抵抗性高血圧患者の定義は3種類以上降圧剤を内服しているにも関わらず血圧140-90以下への治療困難な症例とする。
対象患者の平均の1時間あたりの無呼吸低呼吸の回数(AHI)40.4回/時間、治療前の収縮期と拡張期の平均血圧は144-103であった。また患者の26%が夜間の血圧が日中血圧の10%以上に低下するdipper typeであった。12週間のCPAP治療にて非治療群と比較して、拡張期血圧は-3.2mmHgと有意な低下を認めたが、収縮期血圧は-3.1と統計学的には有意ではなかった。また夜間に血圧が低下している割合を検討したところ、CPAP治療群は36%と非治療群では22%とCPAP治療でdipper typeの患者が有意に多かった。さらに、CPAP治療時間が長ければながいほど、24時間の血圧が低下していた。

ゆみのコメント:
降圧剤を多く内服しているにも関わらず血圧が下がらない治療抵抗性高血圧患者は多く存在する。この患者は、将来的に様々な心血管系イベントをきたす可能性が高いことが報告されている。最近、この治療抵抗性高血圧の病態に、夜間の繰り返す低酸素や覚醒反応を示す睡眠時無呼吸症が深く関係していることが明らかになっている。
本研究では、睡眠時無呼吸症と治療抵抗性高血圧が併存している患者にCPAP治療を3か月間行い、拡張期血圧と夜間の血圧低下を有意に認めたことを明らかにしている。日常診療において、治療抵抗性高血圧患者は、降圧薬を増やすだけでなく、睡眠時無呼吸症など血圧に影響を与える可能性のある併存疾患の存在を考え、その治療を行うことで、血圧が低下する可能性があることを考える。しかしながら、治療抵抗性高血圧患者へのCPAP治療により全例に血圧が低下するわけではない。治療抵抗性高血圧と睡眠時無呼吸症の因果関係は、1)両疾患が単なる合併している 2)睡眠時無呼吸症が治療抵抗性高血圧の要因となる 3)治療抵抗性高血圧が睡眠時無呼吸症の要因となる、など症例により異なる可能性があることを念頭におく必要がある。

引用文献:Martínez-García MA et al. Effect of CPAP on blood pressure in patients with obstructive sleep apnea and resistant hypertension: the HIPARCO randomized clinical trial.  JAMA. 2013;310:2407-15.

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2014年3月10日 月曜日

高齢者における睡眠時無呼吸症と心血管死のリスク

一般的に閉塞性睡眠時無呼吸症は心血管系疾患による死亡リスクと関連があることが言われている。しかしながら、高齢者において、それが同様にあてはまるかは明らかでなかった。
そこでMartínez-Garcíaらは、1998年から2007年に無呼吸症を疑い睡眠検査を行った65歳以上の患者939名を対象として、平均5.7年の前向き観察研究を行い、無呼吸症と心血管系疾患死亡との関連性を検討した。対象患者を無呼吸の重症度である1時間あたりの無呼吸低呼吸回数(AHI)<15回/時間をコントロール群として、AHI15-29を中等度、AHI>30を重度と判断した。また無呼吸症と診断されCPAP治療を行っている群(CPAPを一晩に4時間以上使用)と未治療群(CPAP4時間未満使用または処方されていない)に分けた。結果として、重症の睡眠時無呼吸症でCPAP未治療群において、心血管系疾患の死亡のリスクと有意に関係していた。

ゆみのコメント:
いびきや日中の眠気で悩んでいる壮中年世代において、睡眠時無呼吸症と高血圧や脳梗塞、心臓病や突然死との関連性は、多くの研究報告により明らかになっている。
超高齢社会を迎える本邦において、高齢者の無呼吸症への治療の意義については、日常臨床上の問題となっている。本研究は、高齢者を対象として、CPAP治療を行わない重症無呼吸症は、無呼吸症がない人と比べると、心血管系疾患による死亡を起こしやすいことを前向き観察研究において明らかにした。この研究結果から、いびきや睡眠中の無呼吸を認める高齢者には、適切な睡眠検査およびCPAP治療の導入が、心血管系疾患による死亡リスクを下げる可能性があることを示している。

引用文献:Martínez-García MA et al. Cardiovascular mortality in obstructive sleep apnea in the elderly: role of long-term continuous positive airway pressure treatment: a prospective observational study. Am J Respir Crit Care Med. 2012;186:909-16.

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2014年3月 3日 月曜日

睡眠時無呼吸症におけるCPAP治療の抑うつ症状への効果

睡眠時無呼吸症と抑うつ症が関連していることが言われている。しかしながら、睡眠時無呼吸症患者におけるCPAP治療の抑うつ症状への効果はいまだ明らかではない。 Gaqnadouxらは、多施設前向き観察研究にて、無呼吸症への長期CPAP治療が抑うつ症状へ効果を認めるかを検討した。睡眠時無呼吸症と抑うつ症状をもった300名の患者を対象とした。そして、CPAP治療を1年以上継続し、残存している抑うつ症状と関連する因子を多変量解析にて検討した。対象患者全体では、平均529日のCPAP治療継続にて、抑うつ症状のスケールであるQD2Aスコアが9.2から5.4まで減少した。しかしながら、41.7%の患者が依然抑うつ症状が残存していた。残存する抑うつ症状に独立した因子は、女性、心血管系疾患をもち、日中の眠気が残っている人であった。

ゆみのコメント:
睡眠時無呼吸症と抑うつ症状をもつ患者にCPAP治療を行い、60%の患者で抑うつ症が軽快していた。これは、睡眠時無呼吸症が抑うつ症状の原因となり得ることを示している。またCPAP治療を行っても残存する日中の眠気が生じる症例は、抑うつ症状の改善がみられない、つまり睡眠時無呼吸症を原因としない抑うつ症状である臨床的徴候となる。本研究は観察研究であったが、睡眠時無呼吸症と抑うつ症状の更に明確な関連性を示すため、良好なデザインでのCPAP介入試験結果が待たれる。

引用文献:Gagnadoux F et al. Depressive symptoms before and after long term continuous positive airway pressure therapy in sleep apnea patients. Chest. 2014 Jan 16. doi: 10.1378/chest.13-2373.

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